温泉でアサヒ・コム編集部が訪ねた「山頭火の愛した温泉 大分・湯平温泉」


温泉で11月初旬、大分を訪ねた。大分空港から車で大分空港道路、日出バイパス、大分自動車道を経由して、湯布院インターで下りる。
 大分の温泉といえば、別府と由布院。ところが、由布院駅から車で20分ほど足を伸ばすと、湯平(ゆのひら)温泉にたどり着く。漂泊の俳人、種田山頭火が愛してやまなかった800年の歴史を持つ温泉街だ。

 「時雨るるや 人の情けに 涙ぐむ」。山頭火は湯平温泉をそう詠んだ。温泉街の入り口には句碑があり、「山頭火ミュージアム時雨館」には山頭火ゆかりの作品が展示してあった。

 平日とあって、にぎやかな由布院とは対照的に、客がほとんどいなかった。聞こえてくるのは花合野川(かごのがわ)の水音だけ。傾斜のきつい石畳の坂道をのぼる。温泉宿が並び、共同浴場が五つ。木造の旅館やみやげ物店の店構えなど、湯治場の面影が残っていた。共同浴場は100円から200円で湯につかることができる。金の湯、橋本温泉、中央温泉、中の湯、銀の湯。橋本温泉は湯平随一の広さを誇る。

 早速、石畳通りの入り口にある銀の湯へ。誰もいない浴場で入浴料の200円を箱に入れる。8畳ほどの湯船につかった。温泉街に沿って流れる川音を聞きながら、ひとり、湯船を独占した。窓を開け放ち、紅葉には少し早いが、秋の気配を感じさせる山肌をながめる。桧(ヒノキ)づくりの浴槽の角に首をあずけると、自然にふーっと、ため息が出た。かつては川の中に湯船があったという。

 湯平の湯は、飲めば胃腸病に効能があるといわれ、容器に入れて持ち帰る人も多い。湯はナトリウム、塩化物泉で、神経痛、打ち身、冷え性に効くとある。

 別府、由布院とは違った山里にたたずむ温泉もまた、魅力的だった。

朝日新聞 - 2006/11/7